<第6景> 西寺尾歩道橋 まるで戦国中世の見張り櫓

歩道橋名に「西寺尾」とありますので、早速に物議を醸すことになりそうです。西寺尾と言えば神奈川区内にある地名なのに、「鶴見百景の会」に入れてしまうとはいかがなものか、そもそもそんな掟破りはNGのはず!さては西寺尾が神奈川区内にある地名なのをご存じないのだな、とノツケからそんなイシツブテが飛んできそうですが、西寺尾が神奈川区内にあることは重々存じております。知っていながら何ゆえ「鶴見百景の会」にカウントをしているのかと言えば、それなりに故あっての事。まずはその事情説明から。

実は百景めぐりの探訪を始めた昨年の暮れのこと。かねてからスタッフの間で、馬場の排気塔付近にある歩道橋の見晴らしが極め付き、との話が持ち上がっていて、探訪の最初に尋ねてみることとなりました。ただ歩道橋のある地域の地番がとてもややこしいようでしたので、橋のすぐそばにある電柱の地番を確認してみると、電柱そのものは歩道橋より幾分馬場方面よりにあり、馬場1-17とあります。

一方、歩道橋を通り越してもう1本先の電柱には西寺尾1-24と。この位置関係であるなら、歩道橋も鶴見区内にあること間違いなしだろうとみなし、一押しの絶景地として百景に取り上げることにしました。

けれどもことはそれほどすんなり収まるわけではなく、この界隈は鶴見区、神奈川区、港北区という3つの区域が複雑に入り乱れ、付近で暮らしている住民の方々でさえ、地番の表記には戸惑ってしまう様子です。そこで本年(2022年)3月改めて再度探訪、橋の構造等について検分しながら、ネームプレートの表記を確認してみると、やっぱり「西寺尾歩道橋」とあります。この歩道橋が西寺尾にあることはわかったとしても、こんなおいしい好適地を手放す気持ちにもなれず、ここは1つ、ただでさえ地番表記が入り乱れている地域性にこと寄せると共に、電柱に表記されていた馬場1-17と言う地番にもあやかって、幾分苦し紛れな展開になりますが、「鶴見百景の会」入りを決めたいと、誠に勝手ながらカウントさせてもらうことにしました。

さて、この西寺尾歩道橋ですが、首都高速横浜北線の馬場出入口の完成に伴って、地域住民のために特設した橋のようです。遠目から見ると大きく広がっている道路上にニョキッと突き出ている様は、まるで戦国時代の見張り櫓を思わせる風情がなんとも厳めしい!そして緩やかな階段を登り、踊り場で向きを変えててっぺんまで上がってみると、そこから見える眺望はパノラマそのものです。何しろ視界は270度に開かれていて、丸ごと手に取るように見晴らすことができるのが、なによりの魅力です。東の方角を見渡せば、内路交差点の向こうにランドマークタワーの頭部や風力発電の風車がくっきりと浮かび上がっています。そして正面にはJR横浜線の線路を挟んで、神奈川区内の丘陵地が広がり、西に方角を変えれば、馬場インターの出入り口とJR横浜線のトンネル、さらに首都高の排気塔といった眺望を楽しむことができます。

その昔この地に見張り櫓が立っていたしたら、ここの守りに着いていた武人たちは、どんな光景を目にしていたのでしょうか? 

写真はすべて2021年12月撮影

<第7景> 馬場の排気塔横  西寺尾歩道橋と合わせ鏡に

西寺尾の歩道橋を後に菊名方面へと進んでいくと、道路と反対側の視界が急に開けてきて、遠くには三ツ池公園の側にある電波塔が見えてきます。かってのこの付近の景色について知悉している人が、久方ぶりに現在に見る光景を目にしたとしたら、おそらく浦島太郎のような気分に襲われるだろうと思います。そのくらい首都高馬場の出入り口が竣工したことで、あたり一帯の様相も一変してしまいました。道路の両側に鬱蒼と樹木が生い茂り、側道を歩いても昼なお暗いかのような雰囲気だった景観が、見違えるような変貌を遂げて、広々とした道路が出現する一方、道路の反対側にあった丘陵地もすっかり削り取られて、歩きながら遥か彼方の電波塔が見えるくらいに、風景そのものがすっかり変わってしまいました。しかも西寺尾の歩道橋を上ってみても270度程度の展望しか見渡せず、後の90度の部分は西寺尾や馬場に向かう小道にさえぎられて、それ以外には何も見えない状態でしたが、その見えない部分を第7景が補って、両者を合わせてみることで、360度の展望が可能となります。ただし眺望がよくかつ電波塔が見える地点は極めて狭い範囲に限定されますので、場所のセレクトにはくれぐれもご用心を。

2021年12月撮影

<第8景> 上の宮1丁目4    こんなところからベイ・ブリッジが!?

2021年12月撮影

馬場の排気筒を越えて歩行者用のトンネルをくぐりぬけ、しばらく行くとやがて法隆寺交差点に到着。ここからの見晴らしもチョーがつく位の景観地なのですが、ここでの眺望を楽しむのは後回しにして、その前にちょっと寄り道を。

行き先はかってビックゴルフと言うゴルフ場(2020年末で閉鎖、現在つまり2022年3月はマンション建設のため工事中)があった方面へと向きを変え、わずか十数メートルも歩いたところでさらに右手へと入っていきます。するとエミエール菊名と言うマンションの向こうに、ベイ・ブリッジが見えてきます。えっ?こんなところからでも、ベイ・ブリッジ?と言う気持ちに駆られますが、その意外性に満ちた妙味がちょっとした感動を呼び起こしてくれます。そして目を凝らして左手を見ますと、横浜火力発電所のシンボルタワーとも言うべき2本の煙突が見えてきて、これまたちょっとした贅沢な気分を味わえますね。

<第9景> 馬場7丁目7  見えるかなぁ? 2つの橋の先端が・・・

第8景の場所から坂道をほんの数メートル下っていくと上之宮から馬場へと地番が様変わり、そして車止めのあるところまで来てみると、その下には長い階段が続いていますが、その場所の左手遠方には電波塔が視界に入ってきます。そして右手へと向きを変えてじっと目を凝らしますと、遥か彼方にベイ・ブリッジとつばさ大橋と言う2つの橋が同時に見えてきます。わずか数メートル移動しただけなのに、そんな光景が見えてくること自体、ちょっとした拾いものをしたかのような気分にさせられます。とは言えそれを目視するには問題もあって、よほど注意深く見つめてみないことには、視界にとらえることができないところが難点と言えるかもしれません。そんなことを考えていると目の前に階段を上ってくる親子連れがやってきました。

早速、声をかけて挨拶を交わし不躾ながら「ここからベイ・ブリッジとつばさ大橋と言う2つの橋が同時に見えるのですが、ご存知でしたか?」と尋ねてみると、「えー、ここから2つの橋が同時に見えるんですか?」と。指差しながら説明をしてあげると「ほんとだ!あれがベイ・ブリッジで、こちらがつばさ大橋ですよねー!長いことこの近くに住んでいて、いつもこの階段を上り下りしていたのに、2つの橋が一緒に見えるなんて知らなかった!」そして坊やを抱え上げながら「あっちとこっちに有名な橋が見えるよ、見えるかなぁ?」と教えていますが、幼い坊やにとって2つの橋が何であるのか、橋のほんの先端部分しか見えない状況とあって、難しい様子でした・・・。

<第10景> 法隆寺交差点 れっきとした鶴見区内の絶景地

鶴見からこんなにくっきり富士山が!2021年12月撮影

いよいよ大物絶景地の出番です。綱島街道に数ある交差点の中でも、そのネーミングからして超有名交差点の1つと言って良いでしょう。しかもこの交差点の一角に立ってみると、ロケーションの見ごたえに思わず「絶景なるかな!」と叫びたくなるような心の高鳴りを覚えます。雲1つない晴れた日には霊峰富士を真正面にとらえることができますし、その横には新横浜にあるプリンスホテルを始め駅ビル群もくっきりと浮かび上がっているのを捉えることも。すると前を歩いていた中高年のカップルが声高に話し合っている姿が見えてきました。耳をかたむけてみますと・・・。

「ねぇ、法隆寺交差点と標識にあるけどそのお寺さんって、この近くにあるの?」
「ウン、この交差点のすぐ下にあるんだ。道路を渡って向こう側に行ってみたら、下のほうに見えてくるはずだよ」
「そうなの、でも法隆寺と言う名前から思い浮かぶのは、奈良にある有名なお寺さんなんだけど、何か関係があるの? 」
「聖徳太子が創建した法隆寺のことだろう、ここの法隆寺は日蓮宗の古刹のはずだから、縁もゆかりもないはずだよ・・・。」

この交差点のネーミングになっている法隆寺の所在地は港北区内にありますが、交差点そのものは、れっきとした鶴見区内の地番になっています。ここから見える朝の富士、昼の富士も素晴らしいのですが、夕映えに映し出されたシルエット風の富士も華麗なるマウント・フジの醍醐味をたっぷりと堪能させてくれますので、ぜひともその景観美をご体験下さい!