第29景 京浜運河 先人の偉大な功績を偲んで

8月の街歩きの散策会をどうすべきかを検討する際に、まず頭を痛めたのが暑さ対策でした。連日、猛暑日が続く時期であり、街歩きのイベントを挙行するにしても、日中の暑い盛りに長距離の道のりを上り下りするのはのは、いかがなものかと思案していると、そこはすかさず女性陣から「だったら、昼間でなくて夕方から夜間ににかけて、鶴見川沿いの街歩きというのはいかが?」との提案があり、あっという間に一件落着。さすがは頭の柔らかな女性陣ならではの発案であり、ゴリゴリに固まって街歩きといったら、昼間のイベントとしか思い浮かばないオッさん的な思考回路からは、出てこないようなグッドアイディアとあって即決!しかも終着地はキリンビバレッジで、彼の地でバーベキューを楽しむというおまけ付きの決定打で、大いなる盛り上がり!ただ、せっかくの名案であったのですが、残念ながらコロナ禍の感染拡大とあって、肝心のキリンビバレッジの閉鎖状態が続いていることが判明。計画を大幅に見直し、出発点はふれ〜ゆで、辺りの工業地帯を散策しながら鶴見大橋経由で生麦駅へ。駅近くのお蕎麦屋さんにて打ち上げというコースに変更しました。

当日は鶴見駅前のバス停に集合、5時きっかりのバスに乗車、一路ふれ〜ゆへと向かったのですが、途中から車内の乗客がいなくなったためか、ほぼノンストップの状態でバスに揺られての行程でした。しかしよくよく考えてみるとふれ〜ゆ周辺の散策が終わって鶴見大橋へ向かう道のりは、バスで来たコースをそのまま徒歩で引き返すことになり、これは大変なことになりそうだなぁ、と幾分不安な気持ちも込めて覚悟を決めこむことに!

ふれ〜ゆに到着するなり、木々の生い茂る通路をくぐり抜けるようにしばらく進んでいくと、突然目の前に広大な空間が広がり、まさに巨大な翼を広げているかのようなつばさ大橋の見事な雄姿が見えてきました。早速スタッフの間での会話が!

「目の前にある海のような川のようなものは何なの?」「これは川とか海とか出なくて運河なんですよー!」「へー!運河なの!で、何と言うなの運河なの?」「この辺一帯を含めて京浜運河といっているみたいですよ」「京浜運河ねぇー!ウーン、待てよ!京浜運河と聞いて何か思い出すなぁ。そうそう、先日のブラタモリの番組で紹介していたような」「そうなんですよ。あの番組でも詳しく取り上げていましたが、この辺の運河の全てを例の浅野総一郎さんが作ったようなんですよね」「そうなんだ!それにしても広大な規模だよねぇ。こんなスケールで大仕事をしていたなんて、やはり浅野さんという人は横浜の発展にとって、かけがえのない業績を残した大人物なんだよね!」「浅野さんが残してくれた大事業に基づいて、今やあそこに見える東京電力の火力発電所があり、また目の前にそびえるつばさ大橋やベイブリッジが架けられたわけでしょう!その意味では横浜のみならず、日本の京浜工業地帯そのものの礎を築いた浅野さんの事業家精神なくして、現在に見る横浜発展の歴史は考えられませんよねー!」

先人が残してくれた偉大な開拓事業を噛み締め、運河沿いに築かれた工業地帯の発展ぶりを見つめながら、改めて明治人の先見性の凄さに頭の下がる思いを禁じえませんでした。それにしても土曜の夕べとあってか、運河に釣り糸を垂れている太公望のなんと多いことか!これも浅野大先生のおかげ?

つばさ大橋 2022年8月撮影

第30景 鶴見大橋 2本だった煙突が1本に?

ふれ〜ゆを後に、先ほどバスに揺られてきた道のりをそのまま徒歩で引き返す覚悟を決めて、いざ出発!次に目指すは鶴見大橋なのですが、その前にとりあえずの目標地点として産業道路に。それにしてもほぼ直線コースに近い道路をひたすら歩くのみとあって、ちょっぴり味気ない気も。本当は周囲の工業地帯の夕景を楽しむというプランを考えていたのですが、この時期(8月上旬)の6時前後とあって、夜景を期待すること自体がそもそも無理な話でした。そよぐ夕風を心地よく受けながら、黙々と歩き続けること30分。ようやく高速道に平行する産業道路に到着。ここまできたら目的地は目と鼻の先だろうと思いきや、たどり着いたのは鶴見大橋ではなくてなんとJR鶴見線の陸橋でした!お目当てのスポットはもうちょっと先に。

滴る汗を拭いながらついにやってきました鶴見大橋!折からの暑さもそれまでの疲れも、いっぺんに吹き払われるくらいの爽快感を満身で噛み締め、苦労して現地にやってきた分だけ報いられる喜びも一入、橋の中央に躍り出て思わず万歳の掛け声を出したくなりそうな感動がこみ上げてきます。そして爽やかに吹きかけてくる海風の優しさが心の中にまで染み渡ってきて、思い切り空気を吸い込み深呼吸をしてみました。この鶴見大橋の海側と山手側の景色を見比べると、何といってもおすすめしたいのは海側にあります。目の前には東京電力横浜火力発電所の全貌が姿を表していますし、それにあの2本の煙突が揃ってそびえているはずなのですが、あれれっ!ここから見える煙突は2本でなく1本しか見えません。その意味では何ともけったいなロケーション地と言うことでしょうか?。その発電所のさらに向こうにはベイブリッジも見えていて、鶴見区自慢の景観をセットで楽しむことができます。

第1景から訪ねてきた百景を巡る旅も、ようやく第30景の地点にまでたどり着くことができましが、この鶴見大橋こそ第30景を飾るにふさわしい一押しの景観といえるのではないでしょうか!